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「くふ……くははははっ!」
悪役のような高笑いとともに、僕は祭壇の中央で天を仰ぐ。
その祭壇のそばには自称・神の老紳士がいる。
「では、今からおぬし……死働番号一番を主魔法零七界(しゅまほうぜろしちかい)エリアに転生させる。覚悟はよいか」
「もちろんですともさ。この時をどれほど待ちわびたことか……くは」
僕は笑みを浮かべて答える。ちなみに死働番号とは読んで字のごとく天国で働く死者に付けられる番号だ。働いた日数の一番多い者から番号が下がっていく訳だ。
ちなみに僕がここに来た時、死働番号は五千六番だった。意外にも少ないなと思ったが、考えてみればみんな早く転生したがるはずだから十年と経たずにここを出てしまうのだ。
もう人生に戻りたくない人なんて一日も働かずに魂を消滅させる道を選ぶのだから、少ないのは当たり前だ。
「じゃあ行ってきますよ、神様」
「おう、達者でな」
メリットがあるので神様とはある程度親しくなったが、さすがに考えを読まれていたのか、結局最後まで親密にはなれなかった。本来なら女性に使うべき表現を用いると、ガードが固いのだ。
気付けば僕の踵が消えてきていた。もうすぐだ、もうすぐでこの退屈な日常から抜け出せる。
消滅が腰まで及べば、後は一瞬だった。意識は消え、感覚は無くなり、意思は宿らなくなった。
そうして、僕は三十一歳ではなくなった。
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