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次に目が覚めた時、僕はベトベトで狭い空間に閉じ込められていた。息ができない……と一瞬だけ焦ったが、すぐにしなくてもいいことに気付き落ち着きを取り戻した。
柔らかい壁の向こうから『あら元気ね、お腹を蹴ってるわ』という優しい声が聞こえてくる。
そうか、ここは子宮という物の中か。前世で女性経験がなかったのが災いしたのだろうか。
思えば三十一歳で未経験とは笑えない冗談だったな。
『心配しなくても、すぐに出られるわよぉ』
おお、まだ見ぬ母上殿、それはありがたい。が、しかし何故胎児からスタートなんだ。そこはご都合主義で不老不死とか……とは思うが、やはりたったの百年ではそれは高望みと云うものだろうか。
『ではチェリム様、こちらへ』
……すぐにとは言ったが、まさかこんなに早く手術が始まろうとは。
まあ、いい。都合がいいからな。――はっ、まさかご都合主義とはこういうことを言うのでは!
んな訳ないか。アホらし。
しかし眠いな……腹を蹴って疲れたのか? まあ、僕が出産されるまでにはまだ大分時間が残っているだろう。その間はせめて寝ていよう。
ふぅ、それにしてもここは落ち着くなぁ。
――はっ! いかんいかん、僕はいったい何を!?
「あっ、目を覚ましたみたいですよー!」
「よかったわぁ。少し前までは元気いっぱいにお腹を蹴っていたのに、まさか寝てるだなんて」
母上殿の声がする。僕は引き寄せられるように声の出所へと目をや……ろうとしたが、思うように見えない。おかしいな、瞼は上がっているはずなのに。
そうだ、泣いたりした方がいいだろうか。
いや、ここは常人ではないことをアピールするために泣かないというのも……。
母上殿ー、いつかこの世界を掌握する息子ですよー。
「お子さん、将来は美人になりますよー」
「ええ、今からお婿さんが楽しみだわぁ」
えっ。
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