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それから五年後。僕は、自慢してもし足りない程の豪邸の一室で深呼吸していた。
母上殿に誉められたい――僕の精神年齢がどうなっているのかは分からないが、およそ三十六歳とは思えない思考回路だ。
さて、誉められたい、と言ったが、これから何をするのかは実は僕には知らされていない。ただ、何かを試される? らしいことはメイドたちから話に聞いていた。
僕が問い詰めてもはぐらかされるのだ。まあ僕の問い掛けに答えなかったメイドは一人残らず、僕の発明品でスカートめくりの刑に処してやったが。これもやはり、五歳児の考えそうなことだ。
「シニ! 待ったか?」
僕が思考の穴にどっぷりと浸かっていると、背後から父上殿の僕を呼ぶ声がした。僕が振り返ると、彼は後ろで髪を纏めているところだった。
灼眼、と表現すれば良いのだろうか。彼は静かな緋に染められた双眸を、期待の色に輝かせている。そんな父上殿を見て少し子供のようだと思い、僕は小さく笑みを浮かべた。
「すまんな、少し任務が長引いてしまって」
言い訳じみた言葉を並べて謝罪する。もういいから。
「はい、分かっていますよ父上殿」
「ああ。本当に……」「それより要件の方は?」
焦れったくなったので、父上殿の謝罪を遮って話の展開を急かした。父上殿は「あ、ああ。魔力検査だ! 今日はその石の調達に行ってきたんだ」と真相を語る。
「くはっ。父上殿、それでは任務に行っていないと言っているようなものですよ」
「むぅ……」
僕が笑いながら指摘すると、父上殿は困ったように唸った。
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