エピローグ

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凪ぐ風が、肌に心地好い。 日だまりは、こんなにも暖かで、等しく誰にでも降り注ぐ。 フキは両手をグルリと上下に廻し、大きく伸びをした。 空は眩しいまでに、青い。 ちょうど御祖母様の瞳がこんな色をしていたと、以前に聞いたけれど、本当かしら。 彼女は自分の祖母に会った事がない。 フキが生まれた時には、既に鬼籍に入っていたからだ。 祖父によると、亡くなった時にもまだかなり若かったと聞くが、この国の土を初めて踏み締めた時は、フキよりもずっと年少の、あどけない幼女だったそうだ。 戦火により肉親を亡くし、難民としてこの国に逃れてきた、身寄りのない、少女。 さぞ苦労もあったろう。 お日様は誰にだって輝くし、空の青は誰の目も楽しませてくれるのにねぇ。 もう一度、フキは心の中で呟いて、足元の古びたトランクに視線を落とした。 それ程重くは無かったけれど、いつまでも手に持ち続けているのは、流石に疲れる。 なにしろ小一時間も待ち続けているのだ。 降り立ったばかりの時には散々混雑していたプラットフォームは、今ではすっかり人並みが引いてしまった。 中央駅だと、際限無く人が流れつづけるというので、少し離れたこの駅での待ち合わせは正解だと思った。 随分と遅いけれど。 たまに通り過ぎる乗客は、皆一様にフキをしげしげと眺める。 田舎でも散々見られてきたフキだが、頻度が多いと流石にいらつく。 田舎は人が少ない分、初対面も少ないので、見られる事も少ない。都会は、知らない顔が多過ぎる。 異人の顔をしたフキは、帝都でもやはり稀有らしい。 100パーセント白系の祖母程では無いにしても、ハーフの母親よりもよほど異人らしい顔だと、以前祖父に指摘された。 肌は青白いし、顔立ちはキリリと引き締まって、凹凸がくっきりしている。鼻筋は通っているけど尖りすぎで、仄かに緑がかった大きな瞳は、猫の様に釣り上がっている。 手足は細く華奢だったが、周囲の同年代の少女達のそれとは明らかに違い、長く、真っすぐ伸びきっていた。 更に一張羅である、白襟に白のセーラー服が、少女をよりはかなく、可憐に見せていた。
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