ユートピア

9/9
前へ
/9ページ
次へ
「すいません……」 「なんで遅刻したんだ?」 先生が少しにやけながら聞いてくる。 「ちょ……ちょっと参考書買ってました」 バレバレな嘘しか言えない俺。 「……今度から寝坊なんかするなよ。席に着け」 そそくさと逃げるようにして自分の席に行く。 姉の誕生日と松原の話で時間など頭から消え去っていた。 「ハハハ、危なかったな。お前またイヤホン取るの忘れて教室入ってきただろ」 席につくとすぐに隣の席の楢崎が声をかけてくる。 「ああ、忘れてた。時間前に来りゃイヤホンなんか気にしなくていいのにな。取られるとこだった」 「ハハッ、なら遅刻すんなよ」 もちろんクラスメートも思想が少し違うだけで優しいやつらばかりだ。 学級に通うのが億劫なわけじゃない、むしろ楽しい。 この生活がよりにもよって姉貴の誕生日に破壊されるなんて、この時には知る由もなかった。  
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加