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「面倒だ……」
午後7時、不比等は定時によってすっからかんとなった職場で一人、報告書を書いていた。
正式には一人ではなく、彼の背後では白無垢に白い天冠を被りフワフワと漂っている女の幽霊がいる。
「ねぇ、不比等ぉ私お腹が空いたんだけど。」
『妖艶』の二文字がしっくりくる女幽霊が艶かしく不比等の耳元で囁く。
「ヨモツさん、もう少し…待ってて。それと耳元で囁くの止めてよ、ゾクッとする。」
「性的な意味で?」
「悪寒的な意味です!」
不比等が狼狽える姿をヨモツは、コロコロと笑って見ていた。
彼女にとって、不比等をからかう事は娯楽の一部なのだろう。
そんな悪戯好きな幽霊の攻撃に耐えつつも不比等は、一人ディスプレイに向かってワープロと格闘するのであった。
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