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どんな死に方にしても、最後に少しぐらい良い思いがしたい。
幸子は、昼間に買った服と、化粧品を眺めていた。
結婚してから、化粧をして、おしゃれをして、出かける事は少なかった。
幹夫が出かけていても、自分は武と一緒に過ごす。
幹夫は、英里とお洒落なバーに行って、二人でお酒を飲みながら、恋人の雰囲気を味わっていただろう。
現に、何度かお洒落なバーで飲んだであろう、会員カードを見つけた事があった。
幸子は、鏡の前で、きれいに髪をカーラーで巻いた。
そして、今流行っている髪形にしてみた。
それから、化粧をし、マスカラでまつ毛を長めに見せる。
口紅を軽く塗り、グロスを縫った。
32歳には見えないだろう。
幸子は、気分を変えて、夜の街へ繰り出す。
お洒落なバーを見つけ、そこに入り、カウンターに座り、一人でお洒落なカクテルを飲む。
ドラマなら、ここでいい男が現れて、一緒にカクテルでも飲みながら、一夜を過ごすであろう。
そんな事を考えていたとき、誰かが幸子の隣に座った。
すらっとした背広姿の男性だった。
横顔がキリッとしていて、幸子は少し、ドキッとした。
すると、隣の男性が、声をかけてきた。
「お一人ですか?」
幸子は緊張したが、最後だと思い、思い切って話しをした。
「はい、一人です。」
「こんなお綺麗な方が、お一人ですか。もしよかったら一緒に飲みませんか?」
幸子は、少し頬を赤らめながら、こくんと頷いた。
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