1558人が本棚に入れています
本棚に追加
「やめろ!!」
幹夫は、狂乱しそうになった。
英里の事が、鬱陶しくて仕方がない。
自分の言いたい事を、叫びまくって、幹夫の足にしがみついて離れようとしない。
幹夫は、英里を足で蹴った。
「帰れ、帰れ!!!」
「嫌、嫌、嫌!!!!」
英里の顔を蹴り続けるが、英里は、それでも幹夫から離れようとしない。
幹夫はおかしくなりそうだった。
いや、もう英里の顔や、お腹を蹴っているんだ。すでにおかしくなっている。
幹夫は、英里のしつこさにあきらめに似た気持ちになり、その場にへたり込んだ。
「幹夫さん、愛してるわ。離れたくない。」
血まみれになりながらも、幹夫を深く望んでいる。
そんな女が急に哀れになった。
幹夫は、英里を家の中に入れた。
その時、幹夫の電話が鳴った。
急いで、電話に出た。
「もしもし、幸子か!!」
幹夫は、精一杯幸子を呼んだ。
「ええ、幹夫さん、私やっぱり家には帰れないわ。
英里、妊娠したんですってね。」
幹夫は、血の気が引いた。
あのやりとりを、幸子は見ていたのだ。
「待って、幸子!!英里には、おろしてもらうつもりなんだ。」
その言葉を聞いた英里が、幹夫から携帯電話を強引に奪い取った。
「おい、何するんだ!!やめろ!!!」
「幸子なのね!!幸子、私は幹夫さんの子供を産むわ!!あんたなんかに、幹夫さんは渡さない!!!」
幹夫は、同情して家なんかに入れなければよかったと、後悔したと同時に、また英里が憎くなり、英里を殴った。
「や、やめて、幹夫さん。」
もう無我夢中だった。
電話を奪い取って、出た時、もうすでに電話は切られていた。
幹夫は、絶望的になった。
もう、幸子からの連絡はこれが最後になったかも知れない。
この女のせいで・・・
自分の過ちをいつの間にか、英里一人に、擦り付けていた。
電話越しに、幹夫は確かに英里を殴っていた。
それが伝わった幸子は、悲しみに胸が痛かった。
幹夫は、自分が犯した過ちを英里のせいにしようとしている。
幸子は、それがわかってしまった。
あんなに優しかった幹夫が、変わってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!