失踪1日目

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「ママ、疲れちゃった。全部全部、嫌になっちゃったの。」 武は、まだ5歳。何もわからない。 ただ、幸子の様子がおかしいことは子供でも、わかっていた。 「ママ、疲れたなら僕がお手伝いしてあげる。」 「ありがとう。」 この子を残して逝く事は、とても辛い事だ。 だけど、この子には、未来がある。 昔から幸子は、自分で辛さを抱え込むくせがあった。 人に打ち明けるのが苦手で、悩みすぎて、円形脱毛症になったりもした。 今、部分ウィッグで、その部分を隠している。 幹夫はそんな幸子の様子に、気づく事もない。 それも当たり前、幸子は捨てられないように、最大限努力をしたからだ。 だけど、そんな努力は、無意味なものだった。 こんなに追い詰めるまで、我慢する必要があったのだろうか。 結局、今自分はボロボロになって、このかわいい一人息子を置いて死のうとしているのだ。 「武、ママがいなくなっても、パパが武を守ってくれるよ。」 武は、泣き出した。 「嫌だ!ママじゃなきゃ、僕はパパよりママの方が好きだから。」 武は、幸子にしがみ付いた。 今は、生き地獄だと感じている。この子と二人で生活しても、自分はこの子を幸せにすることなど、できない。 離婚しても、不幸になり、離婚しないように、努めても、生き地獄。 このループを抜け出すためには、もう死ぬしかない。 子供を愛している。でも、夫も愛している。 どちらも、失えない。 誰かに相談すればいい? 誰かに泣きつけばいい? でも、一度浮気している事実を突きつけたら、前のようには戻れない気がしていた。
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