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――また今日も、退屈な時間が来たか。
マンションの屋上、柵から身を乗り出して呟いた。空気の揺れない溜息が混じり、何だか急に歳をとった気分になった。
流れる雲と踊る月灯りが背の低い建物ばかりの町を照らす、穏やかな宵。マンションの屋上から身を乗り出してみると、温度の足りない風が控えめに街路樹の葉を揺らすのが見えた。
建物と車の間を行き交う人達や人ならぬモノ達も、どことなく終わりゆく夏を惜しんでいるように見える――と思うのは、ちょっと先日から感傷的になっているせいだろうか。
とにかく、今日も1日が終わろうとしていた。
何をする必要もなくなったワタシの趣味は人間観察で、特に好きなのは同世代辺り。そのため、この時間には楽しみが少ないのだ。
……まあ、段々と楽しめる世代は広がっていくだろう。この町の空の下でいつも変わらず、普通な人も普通じゃない人も、みんなのそのそ生きているのだから。
ここ――刻ノ宮(トキノミヤ)市で。
都市というには田舎すぎて、ど田舎というほどひなびてもいない場所。店や病院はあるから生活に困りはしないけれど、若者が楽しめる娯楽はかなり少ない町だ。
面積は大きいとも小さいともいいづらく、人口もその面積から考えれば普通――もっとも、どういう訳だか普通じゃない者の数は多い方だろうが。
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