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水精エンカウント!
水が悲鳴をあげていた。
声にならない声を。
それは誰の耳にも届かず、誰の目にも真実が映ることはない。
「そら、僕らも逃げるよっ」
「え、あ…はいっ」
最後に残った二人にも、その声が届くことはなかった。
残された者は一人。
それは、誰が見ても災厄としか映ることはない。
また、声にならない声をあげる。
底まで黒く覆われたそれの声を聞き届ける者など、ここには最初から存在していないのだ。
そしてそれは一人でに霧を作り上げる。
もう誰の耳にも届かないのならば、いっそこのまま――。
けれど心の何処かでは、ただ一つの願いを捨てきることは出来ないでいた。
どうか。どなたにか。この声が届きますように――と。
その願いが叶う日は、そう遠くはない。
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