第1章 始まりの日

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――そして現在に至る。 一筋の光もない森の中を走り抜くほど、少女の体力がもたなかった。 とりあえず、見つからないように隠れようと考えたのだ。 ガサガサッ 突如、静寂を引き裂くように草木を掻き分ける物音が響きわたる。 「――――――――っ!!!!」 少女は口を両手で押さえ、上げそうになった悲鳴を必死に堪えた。 幸い、今いる位置は少し低い木に囲まれているので周りには見えない。 そっと顔を覗かせ、辺りを見回す。 (……うそっ) 少し向こうにいる気配に気付いた少女は、顔を強張らせた。 そこにいたのは、姿形は狼で人間のように二足歩行をする、俊敏な魔物-ワーウルフが2匹うろついていたのだ。 その素早さと凶暴さを前に、普通の人間は為すすべもなく狩られてしまう。 (まさか……母さん) 悪い想像が頭を過ぎりそうになり、慌てて頭を振った。 とにかく、この場から離れようと、少女は気づかれないようにそっと後ずさる。 パキッ 嫌な音が辺りに響いた。 見ると、少女の足の下に折れた棒がある。 恐る恐る視線をワーウルフに向けると、4つの爛々と妖しく光る金の瞳が少女に向けられていた。
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