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馴染みのある、いつもの風の香りの中に漂う微かな血の匂いを感じ、彼女は意識を覚醒させた。
瞳を開けると、草の緑色だけが視界を染める。
そこで彼女は朧げに、自分は誰かにくの字に抱えられていて、宙に浮いている状態なんだと理解した。
彼女は左上方に顔を向けてみた。
だが見えたのは、その人の右頬につけられた傷から滴り落ちる血だけ……
次に彼女はその人の視線の先、自分の前方へ視線を向ける。
その先に見えたのは、優しい笑顔しか見せたことのない母が、苦悶の表情を浮かべながらゆっくり崩れ落ちていく様子。
腹部の辺りが赤く染まっていた。
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