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ルーラン国南西のはずれにある名もない森――
木々が鬱蒼と生い茂るこの森は昼も薄暗いため、あまり人が寄り付かない。
ましてや、今は夜……
月の光も届かず暗いため、よほどの事がないかぎり人が森の中に入る事はない。
その森の大木の下に少女がいた。
歳は十代半ばくらいだろうか……
胸くらいまで伸びている黒髪は乱れ、翡翠色の瞳は怯えるように揺れ、"ナニか"から身を隠すように必死に小さく屈み息を潜めている。
「なんでこんなことに……」
先刻起きたことが頭をよぎる。
彼女は幼い頃から住むこの森で、今日もいつもと変わらない夜を迎えるはずだった。
いつものように夕飯を食べていると、突然魔物が家を襲ってきたのだ。
「母さん……」
少女は自分を背に庇い、剣を構えて魔物をまっすぐ見据える女性の姿を脳裏に浮かべた。
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