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――突然だった。
扉を壊し侵入してきた魔物に、少女は石像のように固まってしまった。
『しっかりしなさいっ』
そんな少女を叱咤する声……
『母さんっ』
庇うように、剣を構える女性が少女の前に立つ。
少女が母と呼ぶ女性は、少女が落ち着きを取り戻したのを確認し、また魔物に視線を戻した。
『これを持って、私に構わず逃げなさい』
魔物から視線を外さず、女性は後ろ手にポシェットを少女に渡した。
だが、母の言葉に反抗するように、少女は受け取ろうとしない。
母を見捨てて一人で逃げるなんて、絶対にありえないと言わんばかりの感じだ。
その様子に、女性は苛立ちの表情を浮かべた。
ただでさえ凄まじい闘気を纏っているのに、そこに殺気が混じる。
唸り声を出しながらも魔物が手出ししないのは、女性の迫力に圧倒されているからだろうか……
『足手まといなのに、私を殺す気?』
苛立ちのあまり、冷たい言葉が放たれる。
少女は慌ててポシェットの紐を肩に通した。
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