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「……では、後はお二人で」
そう言って、仲介人のおばちゃんと両親はそそくさと部屋を出て行った。
しん、と静まりかえる有名な料亭の一室。
もう何度目だろうこのシチュエーションには慣れてしまって、緊張感も何も無い。
と、向かい側に座っている男性が居心地悪そうに身動(みじろ)いだ。
初対面の人間といきなり2人きりにされても、話題などそうそう浮かばないだろう。
お見合いの場所がホテルとかだったなら良かったのかもしれないが、この料亭は有名どころではあるけれど敷地はそう広くないから、庭の散歩にも誘えない。
せいぜい窓から景色を眺めるくらいか?
といっても、今居る部屋の窓は障子で閉ざされているのだけど。
こういった席では、どんなにもどかしかろうと女から口を開くべきではないらしい。
内心はちょっとイラつきつつ、相手が話し出すのを待つ。
……が、あまりにも無言が続くのでチラリと相手の顔を見る。
「……あの、弥生(やよい)さんとお呼びしても?」
それがサインだったかのように、おずおずといった体(てい)で男性が口を開いた。
「ええ。もちろん」
「……月並みですが、ご趣味は」
「っ……、お渡ししてある釣書に書いてあるかと思いますが」
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