5人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
それは…親父の涙だった
たった一筋だけだが、確かに頬に雫がつたっている。
少なくともアタシは初めて見た。
親父が溺愛してた愛犬チロが死んだときも、決して流さなかった涙。
まさかこんなタイミングで目にするとは思わず、アタシは…
「え…い…いや…あ…」
なぜか動揺してしまい、全く言葉が出てこなかった。
「………」
親父は無言。数秒の沈黙。後に…
フリーズしていた頭が動き始める。弱い頭が算出した答えは…
この場から逃げなきゃ!
プライドの高いこいつのことだから、弱みを見てしまったアタシはただじゃすまないだろう!
頭とは反して、恐怖
でがんじがらめになった体は動いてくれない!
死を覚悟したアタシに親父は意外というか…それをも凌駕する奇想天外な言葉をかけてきた
「はは…味なマネするじゃないか」
いつになく穏やかな声だ。もう数年に一度聞けるかどうかの
「そんなに身を縮めてんじゃねえよ。まあ、礼は言っといてやる」
ありがとう。
ありがとう?あれ?なにそれ?どんなとき使う言葉だっけ?
もはやフリーズを越えて、機能停止になりつつあるアタシに親父は
「もう14なんだよな、時間が経つのは早ええ。暇なら昔話に付き合えや」
昔話。その単語を聞いた途端、張り詰めていた気持ちが一気に萎む。
昔話は親父が特上機嫌であることを示すシグナルみたいなもの。アタシが子供の頃から、いい感じに酔ったときや、なにかとても良いことがあった時に話してくれていた。
「なに?また俺様武勇伝?勘弁してよね。そういうの」
親父がブチキレてない事を知った途端、萎んだ気持ちはまたも膨れ上がる。緊張とは違うベクトルに
「もう子供の頃十分きかされたしさ。一人で20人病院に送ったとか色々」
最初のコメントを投稿しよう!