第四章

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「俺って、優しい?」 しばしの沈黙の後、渡辺翔太はそんな質問を口にした。 「うん、そう思うけど……」 「よかった」 そう言って渡辺翔太は力なく笑う。 「渡辺君?」 「俺さ、どうしても、損得勘定とか考えちゃうんだよね」 何だ。 話の流れが見えない。 「それって、普通のことじゃない?」 「うん、俺にとっては普通なんだけど、でも、たまに、それが堪らなく嫌になる時がある」 「どういうこと?」 渡辺翔太の言っていることの意味がわからない。 「うーん、優しい愚か者に憧れてる、って言ってわかる?」 「わからない。愚か者になりたいの?」 「うん。無条件に、親切な人間になりたくなる時があるんだ」 「無条件?それってただのバカじゃない。だから、愚か者?」 渡辺翔太は「はは、ただのバカか。確かにね」と言って、また笑ったが、私にはどうして彼が笑っているのかも理解できなかった。 「久保さんは、夏目のことどう思う?」 また、質問。 私の最初の質問に対する答えはどこへ行ってしまったのだろうか。
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