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「驚いたな」
渡辺翔太の演技は正直言って下手くそだったが、そんなことは気にもならなかった。
私が驚いたのは、彼らを、いや夏目宗佑を前にして、千佳の瞳に、表情に、何の変化も見られないことだった。
あれ。
「久保さんたちも旅行?」
「あ、うん」
予想外の展開に、私は少し言葉に詰まってしまった。
「こんにちは、渡辺翔太です。初めまして」
渡辺翔太が千佳に対して丁寧な挨拶をする。
千佳は「高橋、千佳です」と自分の名前を名乗ったのちに、私に向かって「知り合い?」と尋ねた。
「あ、うん。ほら、話したことなかったっけ?渡辺君」
私は多少慌てながらなんとか計画の遂行を試みた。
「そうだっけ?」
千佳は何も思い当たることなどないかのように首を傾げた。
興味がないときの反応だ。
「ほら、人身事故の」
私は必死に会話をつなげた。
千佳は「ああ」と答えたが、それだけだった。
あのとき、千佳がマグカップを落としたのはニノマエという名前に動揺したからだと思っていたが、私の先入観がそのように思わせただけなのだと言われれば、そんな気がしてきた。
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