第四章

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「こんにちは。夏目、宗佑です」 夏目宗佑は千佳に向かって微笑を湛えながら自己紹介をした。 その表情からは何も読み取れない。 「こんにちは」と短く答えた千佳は、相変わらず彼らに何の興味もなさそうだ。 「おい柳瀬、お前も」 二人の後ろに控えていた柳瀬拓実は、渡辺翔太に小突かれて、「柳瀬です」と小さな声で自分の名前を口にしながら会釈した。 柳瀬拓実。 彼も不思議な人だ。 肌が浅黒いことに起因してか、見た目だけならば運動部に所属していると言われてもなんの違和感もないが、しかし内実はインドア派という言葉では表せないほど内向的な人間であることを私は知っている。 物理好きらしいが、むしろそれ以外に何か興味があることがあるのだろうかと尋ねたい。 正直、このスキー旅行において彼の存在はそれほど重要ではないのだが、スキーに行くと言われてはいそうですかとついてくるようなタイプには見えないので、彼がここに存在していること自体が意外だった。 「久しぶり。会うのって夏の海以来?」 「そうね。それに、あれも会ったって言うほどのものじゃなかったし」 「確かに。ねえ、昼食、一緒にとってもいい?」 渡辺翔太は自然にその言葉を口にした。 やはりもともと社交的な人なのだということを改めて認識した。 私はちらりと千佳の方を向いて様子を伺った。 ここを断られるとその後の計画もほぼ頓挫状態になってしまう重要な局面だが、本来千佳はあまり他人との関わりを好まない。 それに、断るときは遠慮などせずにはっきり断る子だ。 千佳が快い返事をしなかった場合のストーリーについては何パターンも考えていたのだが、しかし、私の心配をよそに千佳はさらりと「どうぞ」と答えた。 これも私にとっては意外なことだった。
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