第四章

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「やった。ありがとう」 渡辺翔太はにっこりと笑って私の隣の席に荷物を下ろした。 「ほら」と渡辺翔太に手招きされて、夏目宗佑が渡辺翔太のさらにひとつ隣に、柳瀬拓実が渡辺翔太の向かい、千佳の隣に腰をかけた。 「ちょっと買ってくるわ」 小物で席をとった三人は、昼食を購入するために席を立った。 三人と十分距離が離れたことを確認してから、私は小声で「ごめんね」と千佳に謝った。 「何が?」 千佳は首を傾げた。 何に対する謝罪なのか、本当にわからないようだ。 「いや、なんか、一緒にご飯食べることになっちゃったけど、千佳、居心地悪いかなと思って」 「そんなことないよ」 私はその言葉の真意を追求しようか迷った末に「そう、よかった」と言って、会話を終えることを選んだ。 しばしの沈黙。 カレーライスを手に、初めに帰ってきたのは夏目宗佑だった。 「ごめんね、邪魔して」 席についた夏目宗佑は本当に申し訳なさそうに私たちに謝った。 初対面の合コンの時にも思ったが、夏目宗佑は常識のある、まともな人だ。 渡辺翔太に対する態度には仲の良さゆえの毒があるが、基本的にはかなり善良な人間であろうことが容易に察せられた。 容姿、学力ともに高スペックだし、それこそ漫画の中なら女をとっかえひっかえできるような人だと思うのだが、しかし、おそらくそうはなっていないであろうことは彼を見ているだけでわかる。 渡辺翔太とも柳瀬拓実とも仲は良さそうだが、それでも、彼にはどこか物哀しさが付きまとう。 海で見た傷だらけの体が思い起こされたが、まさかここでそれを聞くわけにも行くまい。 「あ、ううん、大丈夫」 私は短く答えた。 正面の千佳は、一瞬夏目宗佑に目をやったかと思えばすぐに手元のつけ麺に視線を戻した。
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