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「あ、ていうかさっき夏目君になんて言ったの?」
「さっき?」
「食堂で何か耳打ちしてたじゃない?」
「ああ。俺、久保さん狙ってるから頼むよって言っただけだよ」
「え」
ストーリーを円滑に進めるための方便だとわかっているのに、突然の言葉に驚いてしまった。
「何その顔?わかってて、俺のこと利用したんじゃないの?」
渡辺翔太はあえて利用という言葉を使った。
図星を指されて押し黙る。
彼は「ははっ」と明るく笑いながら、「別に利用してもらっていいよ。ノープロブレム」と続ける。
渡辺翔太は、賢いし、明るいし、それに善良で、それこそ全てを持っていると言っても過言ではない。
それなのに。
「渡辺君って、どうして、そんなに渇いているの?」
私は彼に対してずっと抱いていた疑問を口にした。
言葉は足りていないが、おそらく渡辺翔太にはその質問の意図が伝わったはずだ。
それに対し、渡辺翔太は「久保さんは、俺のこと、賢いと思う?」と質問で返した。
「うん」と私は素直に頷く。
「そう」
どうしてだが、少し寂しそうな表情を見せた渡辺翔太は何も言わずに正面に広がる雪景色に視線を移す。
リフトから降りた私たちは、さらにひとつ上へと登るリフトに乗り込んだ。
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