第四章

32/38

75人が本棚に入れています
本棚に追加
/507ページ
「一緒に滑る?」 渡辺翔太の問いに対し、私は「ううん、一人で行くわ」と返してスタートを切る。 「おーけー」と聞こえたような気がしたのは、あるいは空耳だったかもしれない。 その後、私は一人で上り下りを繰り返した。 途中柳瀬拓実を見かけたが、今日はじめてスノーボードに挑戦したのだというなら、なるほどすごい上達ぶりだ。 見た目通りだなと妙に感心した。 日も落ちてきて、そろそろ千佳たちに連絡を取ろうかと思った矢先、不意に後ろから誰からにぶつかられた。 「え」 まずいと思ったときには遅かった。 バランスを崩して、コースの端を意味するロープへと突っ込む。 何とかそこで踏みとどまろうと思ったのだが、その思いも空しく、私の体はロープの外へと投げ出された。 「ん」 体が痛い。 そう思うのに、はっきりとどこが痛いのかはわからなかった。 どうしよう。 誰か、呼ばないと。 「久保さんっ」 え。 聞こえた声に反応して、何とか体を起こそうとするも、わずかに体位を変えることしかできない。 誰? 渡辺翔太? 最初に彼の名前が浮かんだのは、私の願望だったのかもしれない。
/507ページ

最初のコメントを投稿しよう!

75人が本棚に入れています
本棚に追加