第五章

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そっとドアを開けると、ソファの上で熟睡している夏目先生の姿が目に入った。 眠っていても、相変わらずの端正な顔立ちだ。 こんな顔で生まれたら、人生バラ色だろうなあ。 壁に掛けられた時計にちらりと目をやり、まだ五分ほどの猶予があることを確認する。 コーヒーでも、入れてあげようかな。 部屋の中に体を滑り込ませ、音を立てないように気をつけながらドアを閉める。 ゆっくりとソファに歩み寄って、その寝顔を上から見つめる。 うわ、寝顔なのにドキッとしちゃった。 「ん」 あ、やば。 そう思うとほぼ同時に、夏目先生がガバリと起き上がる。 そして、「今何時っ!?」とすごい勢いで問いかけてきた。 「ま、まだ大丈夫、ですよ」 あまりの勢いに気圧されて、言葉に詰まる。 「あ、ごめん」と夏目先生が呟いた。 「いえ、起こしてしまってすみません」 「や、大丈夫だよ。ありがとう」 寝起きでも何でも、カッコいいものはカッコいい。 うん。 ごめんよ、将晴。 ここ一週間顔を見ていない彼氏に対して、頭の中で謝罪した。 「わざわざありがとうね。行こうか」 「あ、まだもう少し大丈夫ですよ。コーヒーでも入れましょうか」 「いや、いいよ。ありがとう」 そう言われてしまうとその後に続けることもできず、「はい」とだけ返事をして、部屋を出て行く夏目先生の後に続いた。
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