第五章

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「あ、明け方くらいに高校生の女の子が運ばれてきたそうなんですが」 何とか間が持たせたくて、私も今さっき聞いたばかりの話を口にする。 これを夏目先生に告げるのは私の仕事ではなかったが、まさかここで好きなアーティストを聞くわけにもいかない。 「ああ、中川さんでしょう。彼女起きたの?」 「え。何で知ってるんですか?」 「何でって、処置したの僕だよ」 「え」 あれ? だって、昨日の当直って。 「昨日は内海先生じゃ」 「ああ、娘さんが熱を出したっていうから代わったんだ」 「え!?だって、その前もっ」 というか、この人は一体何日連続で当直をしているのだろうか。 久々に夏目先生じゃないと思ったのに。 「いいんじゃない?暇人がやれば」 自分のことを暇人だと言っているのだろうか。 そんな馬鹿な。 夏目宗佑。 まだ三年目の若手医師だが、紛れもなく我が北翔病院救命救急センターのエースだ。 つい最近まで学生だったなんて嘘のような的確な判断と素早い処置で、実力ではすでにトップに君臨している。 しかし、こう言ってはなんだが、夏目先生の働きぶりはもはや常軌を逸している。 いつ業務に入ってもほぼ確実に夏目先生が存在しているが、そんなことが許されるのだろうか。 当直が労働基準法における勤務時間に算出されないという制度に疑問を感じざるを得ないが、夏目先生はそれを除いてもなお違反しているのではないかと思えてくる。
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