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「先生、ちゃんと寝てますか?」
「はは、変なこと聞くね。さっき寝てたでしょう」
そういう意味ではないとわかっているはずなのに、茶化して笑う。
もう。
「寝たの何時ですか?睡眠時間は?中川さんの処置をしたのが先生ってことは、ほとんど」
夏目先生は「大丈夫だから」と私の言葉を遮ると、「心配してくれてありがとう」と続けて笑う。
そうされると私は黙るしかないからずるい。
確かに何の異常もなさそうに見えるのが夏目先生の怖いところで、いつか突然倒れたりしないかとヒヤヒヤする。
結局それ以上は何も追及せぬまま、引き継ぎを済ませて日勤が始まる。
「救急隊からです。美浜ヶ裏バイパスでトラックと自動車の衝突事故、男性一名、意識レベル300」
「受けます」
「救急隊より連絡、先ほど――」
「受けてください」
「救急隊から――」
「受けて」
「万床だ。断れ」
「でもっ」
「うちが断ったからって死ぬ訳じゃなし、何でも安請け合いすればいいってもんじゃない。できないことをできないというのも責任だと何度言えばわかる」
「……申し訳ありません」
しばしの沈黙の後、夏目先生は素直に謝罪して、目の前の患者に意識を戻した。
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