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このやりとりはもはや日常茶飯事だ。
夏目先生を諭したのは小泉先生、四十代半ばのベテラン医師だ。
とにかく患者を受け入れようとする夏目先生とそれを制止する小泉先生の構図だが、いつも決まって夏目先生が折れる。
私は小泉先生の言うことも正しいのだとわかっていながらも、いつも密かに夏目先生を応援していた。
この春に救命救急に配属されたばかりの私は、自分に関わる全ての人を救いたいと願うほどには若かった。
「夏目先生、こっちお願いしますっ」
「はいっ」
いつもながらその手さばきは惚れ惚れするほどに鮮やかだ。
この人がここにいて良かった。
そう思っているのは私だけではないはずだ。
だからこそ、多少無茶な受け入れをしても夏目先生に反感を持つものは少ない。
「須藤さん、早くっ」
「はいっ」
この戦場のような場所でも毎日気力を保っていられるのは、自らの仕事が人の生死を左右し得るという事実に対する自負とともに、私の中の医療の理想を体現してくれる夏目先生の存在があるからに他ならなかった。
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