第五章

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「ふぅ」 夜勤への引き継ぎを済ませ、朝食以来となる食事を喉に通す。 もう仕事は終わったのだからもっとまともなものを食べるべきだと思うのだが、これから帰って料理をしようという気には毛頭なれない私は、何の色気もないコンビニのお弁当を頬張っていた。 カバンの中でスマートフォンが震えているのに気付く。 将晴だ。 そういえば終わったらこっちから連絡するって言ってたあったんだっけ。 画面を指でなぞりスマートフォンを耳に当てた。 「もしもし」 『もしもし。今、大丈夫?』 「うん、大丈夫だよ」 『ごめん、忙しいのに』 直接ではないが、それでも将晴の声を聞いたのは久しぶりだった。 先ほどまで随分と疲れていたはずなのに、将晴の声を聞くだけで気持ちが軽くなる。 「ううん。こっちからかけるって言ってたのにごめん」 『いいよ。あのさ、今週、土曜って会えないかな?』 「土曜?」 私以上に忙しい彼がこのような約束をしたがるのは稀なことだったが、しかし、土曜は夜の十時までシフトだ。 おそらく実際に病院を出るのは十一時を過ぎるだろう。 将晴は朝も早いし、それ以降では少し遅すぎる。 どう答えようかと思案していると、その沈黙をNoと受け取ったのか、『忙しいか。そうだよな、ごめん』と将晴が言葉を落とした。 私も彼に会いたいという思いがあったので、どこか他の日を提案しようとスタッフルームのドアにかけられたカレンダーに視線を移す。 そこで、今週の土曜日が私の誕生日であることに気付いた。 あ、それで土曜日。
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