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「いい彼氏さんなんだね」
「え」
「だって、須藤さん、とても幸せそうだったから」
夏目先生が優しい表情でそんなことを口にするから、無駄に鼓動が高鳴る。
自分の破壊力を理解していないからずるい。
「いえ、そんなっ」
「はは、そこは否定しないでよ」
処置中はいつも鋭い印象だが、こうして話している分には驚くほど穏やかな人だ。
夏目先生が怒ったりすることなんてあるのだろうか。
「先生は、今日はもう上がりですが?」
「ううん」
「まさか、また当直とか言わないですよね」
当直医は夜勤とは異なり、仕事がなければ過眠などを取っていていいことになっているがしかし、この救命救急センターではそんな制度上の常識は適用されない。
「先生、最後に家に帰ったのいつですか?」
「先月の……中頃?」
「一ヶ月以上前じゃないですか!?」
信じられない。
「あ、でも、お風呂は入ってるよ」
そういう問題じゃない。
「この一週間で何時間寝てますか?」
「一週間?四、いや五時間弱くらいは」
とんでもない発言に私が反応する間もなく、夏目先生の白衣の胸ポケットに入れられた院内PHSが呼び出しを告げる。
いつの間にかおにぎりを食べ終えていた夏目先生は「ごめんね」という言葉を残して颯爽と部屋を出て行った。
なんなんだ、あの人は。
一体どういう構造をしているのだろうか。
夏目先生が自分と同種の生命体であるということに対して疑問を抱きつつも、帰宅した私は倒れこむようにベッドに入り、眠りに落ちた。
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