第一章

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「まあ、さすが千佳ちゃん。この調子なら理三も夢じゃないわね」 「そんなおだてないでよお母さん。まだあと二年もあるんだから」 からりと笑いながら、軽く屈んでローファーに足を入れる。 肩に提げた鞄をきちんと持ち直した。 玄関の鍵に手をかけて、カチリとそれを回す。 理三なんて受けるわけない。 なんで医者になるのに、そんなに冒険をしなくてはならないのだろうか。 もっと確実な道はいくらでもある。 この人は、ちょっと模試の成績がよかったくらいですぐにそんなことを言う。 それでいて、決して私が可愛いわけではないのだ。 優秀な子供を育てる自分に酔っているだけ。 昔から、ずっと、そうだった。 「今日も塾寄るから、帰り遅くなるね」 理想の娘の仮面をかぶって、私は笑う。 「はぁい。頑張ってちょうだいね」 高校二年生になって一ヶ月。 周りには、すでに受験に躍起になっている生徒は少ないし、私だって、この時期から常に全力でい続けられるとは思っていない。 それでも、家には帰りたくなかった。 この家にいる時間を一秒でも短くするために、私は塾へ通っていた。
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