第五章

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将晴の部屋のインターホンを鳴らす。 「はぁい」と中から将晴の声が聞こえたと同時に背後を女性が一人通り過ぎた。 無意識に目で追うと、彼女は隣のドアの前で立ち止まり、鍵を探るようにカバンの中に手を入れた。 将晴のお隣さんか。 こんな時間までお仕事なんだ、大変だな。 そんなことを考えながら、開かれた扉から将晴の部屋へと入った。 「疲れてるのに、悪い。ありがとう」 「ううん。そんなこと」 いつも通りの将晴を前に、もしかしたら今日会いたいと言ったのは単なる偶然で、私の誕生日なんて忘れているのかもしれないという、ここに到着するまで抱いていた不安が大きくなる。 勝手に期待して、浮かれて、バカみたい。 そんな落胆を抱きながら、将晴に続いてリビングへと足を踏み入れた瞬間、目の前に広がる光景に思わず言葉を漏らした。 「嘘……」 テーブルに並べられた手作り料理とその真ん中に置かれた大きなケーキ、その中心には「Happy Birthday Manami」と書かれたチョコレートプレートがあった。 「悪い。外した?」 不安そうに私の様子を伺う将晴に対して私は必死に首を振った。 不意に涙が零れた。 「え、ちょ」 私の知っている将晴は、とことん不器用で、こんなものを考えつくような人じゃない。 これを用意している将晴を想像すると、溢れる涙を止めることができなった。 「真奈美?」 「ごめん。嬉しくて」 私より、将晴の方がずっと忙しいのに、こんな。 忘れているのかもなんて疑っていたことが申し訳ない。
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