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「て、ことで、今から行こうと思うんだけど」
「うん……」
何故だか顔が火照る。
バカ私、おさまれ。
その時、遠方で女性の悲鳴が聞こえた。
「え」
将晴と私の声が重なる。
さらに何人かの悲鳴が畳み掛けた。
何か異常事態が発生しているのは火を見るよりも明らかだった。
悲鳴の方に駆け出そうとした将晴が、私の存在に気付いて思いとどまる。
「いいよ、行こう」
「いや、お前はここに」
「いいから。早く」
将晴を押して声の聞こえた方向へと走る。
悲鳴から遠ざかろうとする人々の流れに逆流しているのがわかった。
「将晴、あれ」
人混みの向こうにナイフを振り回す男の姿が見えた。
男は高校生らしき少女を人質に取っており、大都会の街並みの中で男の周囲はぽっかりと空洞になっていた。
将晴が今にも飛び出そうとしているのが気配でわかった。
瞬間、将晴が刺される映像が頭の中に浮かんで、咄嗟にその袖を掴んだ。
振り返った将晴と目が合う。
行かないでという言葉が口をついて出そうになった。
何とか思いとどまって、「行って」と言葉を絞り出す。
声が震えた。
それをどう捉えたのか、将晴は私の腕を掴んで「大丈夫。俺が、守るから」と言葉を返した。
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