第五章

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違う。 違うよ。 私じゃない。 私じゃなくて、将晴が、将晴さえ。 将晴は私の腕を優しく解くと、刃物を持つ男に向かって、人混みの中から飛び出した。 「やめろっ」 「何だお前?」 「その子を放せ」 「うるせーな、何なんだよ。近寄るんじゃねえ」 男が少女の首元に当てたナイフで、顎を押し上げる。 少女の蒼白な顔を見ているに耐えられなくなった私は、思わず人混みから飛び出していた。 「私が人質変わります!」 その言葉は、気付いた時にはすでに私の口から出ていた。 「バカっ」 将晴の声が聞こえたが、出てきてしまったものは仕方がない。 「なんだお前」 男の注意が私に注がれる。 その瞬間、男の腕をふりほどいた少女が走った。 「おいっ」 男が少女を追いかけて走る。 ダメだ、捕まる。 そう思った瞬間、将晴の投げたスマートフォンが男の腕に当たった。 その隙に少女は将晴の元までたどり着いた。
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