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違う。
違うよ。
私じゃない。
私じゃなくて、将晴が、将晴さえ。
将晴は私の腕を優しく解くと、刃物を持つ男に向かって、人混みの中から飛び出した。
「やめろっ」
「何だお前?」
「その子を放せ」
「うるせーな、何なんだよ。近寄るんじゃねえ」
男が少女の首元に当てたナイフで、顎を押し上げる。
少女の蒼白な顔を見ているに耐えられなくなった私は、思わず人混みから飛び出していた。
「私が人質変わります!」
その言葉は、気付いた時にはすでに私の口から出ていた。
「バカっ」
将晴の声が聞こえたが、出てきてしまったものは仕方がない。
「なんだお前」
男の注意が私に注がれる。
その瞬間、男の腕をふりほどいた少女が走った。
「おいっ」
男が少女を追いかけて走る。
ダメだ、捕まる。
そう思った瞬間、将晴の投げたスマートフォンが男の腕に当たった。
その隙に少女は将晴の元までたどり着いた。
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