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「いや……」
救命救急には日々新たな患者さんが舞い込んでくる。
ある程度状態の安定した患者さんは一般病棟へ移っていってしまうし、一人の患者さんと長く関わったり、患者さんから直接お礼を言われたりする機会が他の科に比べて少ない。
夏目先生はもっと知るべきなのだ。
自分の価値を。
自分の行いの価値を。
もっと知るべきだ。
先生がいなくなって誰も困らないなんて、そんなこと、決して言わせはしない。
その後、彩ちゃんと軽く世間話をして夏目先生と病室を後にした。
「彼女は、ここにいた頃の担当?」
「はい、一昨日院内で偶然会ったので」
「何で、僕だって?半年前は、まだ僕のこと知らなかったでしょう」
「夏目先生、ご自分が有名なの知らないんですね」
「有名?僕が?」
「はい、この院内で夏目先生のことを知らない人なんていません」
「え?」
やっぱり知らなかった。
そんな驚いた顔して。
「そりゃそうですよ。これだけイケメンで腕があったら有名にもなります。先生が助けた患者さん、どれだけいると思ってるんですか」
「いや……」
夏目先生は困ったように首を傾げた。
前から思っていたけど、夏目先生は命を救う天才だけど、外の世界のことは何も知らないんだ。
あの閉ざされた空間で、己の仕事にすべてを懸けている。
まあ、それがこの人の長所か。
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