第五章

36/42

75人が本棚に入れています
本棚に追加
/507ページ
「肯定された方がいいじゃないですか」 「普通は、そうなのかな。でも、僕は、誰かに否定されないと、ダメなんだ」 「私は先生のこと否定したりしませんよ」 「そうだね。でも、須藤さんは、ちゃんと僕を見てくれるから」 どういうこと? 夏目先生は何を言ってるいるの。 「そりゃあ、見てますよ。他のみんなだって、見てますよ?」 わからない。 先生の目に見えてるものは何? 「そうだね」 夏目先生は殻に閉じこもるようにその言葉を口にした。 それより先の世界には踏み込むことができない。 そう、直感した。 「先生、私、夏目先生のこと好きですよ」 将晴に対して後ろめたい気持ちもあったが、どうしても、今、言わなければならないような気がした。 夏目先生は、ふっと笑って「ありがとう。僕も好きだよ」と答えた。 「じゃあね」 私は夏目先生の後ろ姿を、ただ見ていることしかできなかった。 そこが、私の限界だった。
/507ページ

最初のコメントを投稿しよう!

75人が本棚に入れています
本棚に追加