第五章

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「こんばんは。今日、内海先生夜勤?昨日、お子さん大丈夫だった?」 内海麻子先生は、私と同い年の若手医師だ。 学生結婚で、すでに三歳になるお子さんがいるというのだからそのバイタリティーには驚かされる。 昨晩の日勤終わりに、旦那さんからお子さんの発熱の連絡が来ていたようなので、少し心配だったのだ。 「あ、うん、大丈夫!ごめんね、いつも迷惑かけちゃって」 「ううん、私は全然。大事でないなら良かった」 「ありがとう。あ、夏目先生、こんにちは」 「こんにちは。もう外も暗いのに二人とも元気だね」 「そりゃ、私たちはこれからですから。夏目先生はずっとですか?いい加減ちょっと休んだ方がいいですよ」 夏目先生はいつものように穏やかに微笑んだ。 あれ以来夏目先生とは若干話しづらくなっていたが、表面上は普段となんら変わりがなかった。 今日は内海先生の明るさに救われたな。 そんなことを考えてられるのもはじめのうちだけで、業務に入り一度患者さんが運ばれてきてしまえば、そんなちっぽけな事情はどこかへ吹き飛んでしまう。 「救急車来ましたっ」 「はい、行きます。須藤さんっ」 「はいっ」 夏目先生に続いて、搬入口へ向かう。 救急車の中から、ストレッチャーが運び出された。 そこに横たわる人の顔を見た瞬間、私は言葉を失った。 ストレッチャーに乗せられてやってきたのは、将晴だった。
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