第六章

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父がこの世を去ったのは、直樹が生まれてすぐのことだった。 黙って、必死に働いて、女手一つで俺たちを育ててくれた、その母が死んだのが、高校三年生の夏。 もともと警察官になりたいと思っていたのは本当だ。 大学に進学しないことも、高校に入学した頃から有力な選択肢としてそこにあった。 むしろ大学進学という道を消さなかったのは、母がそれを熱望していたからだった。 教師に何を言われてもまるで響かなかったが、母に言われるとそうしないではいられないような心持ちになるから不思議だ。 その母が死に、残されたのは、自分と、まだ小学生の弟だけ。 選ぶべき道は、決まっていた。 バイト漬けの生活で何とか高校を卒業した俺は、そのまま警察官となった。 とにかくがむしゃらに働いた。 やってこれたのは、直樹の出来の良さと、そして真奈美の明るさのおかげだった。 ツキはあった。 二十の時、五歳から続けていた剣道で全日本を制した。 おかげで警察内での知名度が一気に上昇した。 準々決勝で勝利した相手は同い年の大学生、俺が高校三年生の時にインターハイで優勝した選手だった。 高校を卒業してからの自分の選択が、そして生き方が肯定されたような気がしたのは、あるいは驕りだっただろうか。 その後、機動隊を経て、機動捜査隊に配属されると同時に次々と手柄を立てたのは、運が良かったとしか言いようがない。 そして、俺は警視庁捜査一課へと配属されることとなった。
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