第六章

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「おい、茶」 「はいっ」 「これ、コピー取って来い」 「はい、わかりましたっ」 この場所では、俺は若手中の若手だ。 捜査一課に配属されて最初に覚えたのは、先輩たちの飲み物の好みだった。 資料を手にコピー機の前に立ち、タッチパネルを操作する。 隣に人が立つのが気配でわかった。 「よお、相変わらずこき使われてるな」 話しかけてきたのは久高さん、警視庁捜査一課の先輩刑事だ。 と言っても係が違うのでここではあまり関わりはないのだが、機動隊時代にお世話になった。 俺よりは五歳ほど年齢が上のはずだが、それでもここでは若手扱いだ。 久高さんも俺の隣でコピーを取り出したあたり、自分も俺と対して変わらない状況にあるはずだが、その表情にはどこか余裕が感じられるから不思議だ。 「仕方ないですよ。下っ端ですから」 「なあ、前から聞こうと思ってたんだけど、お前、なんだってこんなとこいるわけ?」 「コピー取ってるんですよ。見ればわかるでしょう」 捜査一課内で俺がこんな口をきけるのは久高さんだけだ。 年齢が近いこともあるが、久高さんが話しやすい雰囲気を意図的に作り出してくれていることくらいは俺にもわかる。
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