第六章

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「違うってバカ。特練員でもなしに全日本取ったかと思えば、いつの間にか機動隊やめて、こんなとこいるしよ。どうなってんの?」 特練員とは術科特別訓練員の略称で、要は剣道や柔道を極めることを仕事とする警察官だ。 一般に、特練員は機動隊に所属し、日夜稽古に明け暮れて、いずれは警察官に柔道や剣道を教える指導員となる。 全国警察剣道選手権大会に出場できるのはこの特練員のみであり、必然的に全日本剣道選手権大会で活躍する警察官たちも九分九厘はこの特練員だ。 俺のように特練員でもないものが全日本選手権に出場するのは稀だし、まして優勝なんて前代未聞だった。 「いいじゃないですか。別に俺、剣道続けるために警察官になったわけじゃないですし」 「変なの。お前レベルなら普通に特練やってりゃ剣道の指導教官とかなれるんだし、じゃなきゃSPとかのエリートコースは?結構賢いんでしょ?」 「別に取り立てて賢いってことはないです」 「でも、驚異的スピードで昇進試験受かってるよな。というか、俺としてはお前が昇進試験に通ってることよりも受けてることの方が意外なんだけど。忙しいのによくやるよな。あんまり階級とか興味なさそうなのに」 「別に階級には興味ないですけど、金、必要なんですよ。弟、大学行かせてやりたいですし、彼女との結婚も考えてますから」 久高さんは不敵な笑みを見せたかと思えば、「人間できてるね」という思ってもいない言葉を口にした。 「どうも。お褒めに与り光栄です」 「かわいくねーな」 余計な御世話だ。
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