第六章

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インターホンが鳴る。 誰だ、こんな時間に。 「はぁい」 返事をしてドアを開けると、そこに立っていたのは二十代後半くらいだろうか、若い女性だった。 「え」 彼女は俺の顔を見た瞬間、驚いたように目を見開いた。 何だ、この反応。 部屋を間違えた? 彼女は「あ、隣の部屋のものですけど……」と困惑気味に呟いた。 ああ、なるほど。 以前、真奈美がお隣さんにおすそ分けをしたと言っていたのを思い出した。 この部屋の住人が真奈美だと思って訪ねてきたわけか。 「あ、この間、料理持ってったの、俺の彼女なんです。すみません、なんか」 「ああ」 彼女は納得したように小さく頷いて、その手に抱かれたタッパーに目を移した。 「あの、これ、以前のお料理のお礼にと思ったんですけど……」 「あ、いや、お気遣いなく」 「いえ、もともとそのつもりでたくさん作ったので余ってるというか……、あ、すみません。ご迷惑ですよね」 「あ、や、迷惑ってことは全くないんですけど……」 どうしようかと思案していると、後ろから「どうしたの?」と行って弟の直樹が姿を見せた。 「ん、いや」 状況を説明するのが面倒であっちに行ってろと言おうとしたのに、それよりも先に直樹がタッパーの中身に食いついた。
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