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「こんばんは」
彼女と再び会ったのは、それから一週間と少しが過ぎてからだった。
零時も回った深夜、近所のコンビニを出たところでばったりと出くわした。
「こんばんは」
俺は挨拶を返した。
「最近、暑くなってきましたね」
「あ、はい、そうですね」
自分でももう少しスムーズに返答できないものかと思うが、女性と話すのは本当に苦手だった。
「あー、この間の肉じゃが、うまかったです」
やたらと料理を褒めちぎる直樹の顔が思い浮かんで、言葉が出た。
「本当ですか。よかったです」
彼女が微笑んだことで、何故だか料理を褒めたことを後悔した。
「あ、じゃあ」
一刻も早くその場を立ち去ろうと思ったが、彼女の表情に陰りが見えたことに気付いて足を止めた。
「どうか、しましたか?」
「いえ、何でもありません」
彼女は長い黒髪に手を当てて目を伏せた。
美人だが、影のある表情をする人だと思った。
他人に紛れない独特のオーラを有しながら、それでもなぜが、地味だという印象を与える。
儚いという言葉がよく似合う。
俺は、彼女の意図を探して、周囲をよく観察した。
時間が時間だ。
人通りは少ない。
そんな中道の角からちらちらと黒いコートの端が覗いていることに気がついた。
「ストーカーされてるんですか?」
彼女の瞳が一回り大きくなる。
素直な人だ。
嘘の、付けない人。
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