第六章

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「加護さん」 歩き出してすぐに、彼女が俺の名前を呼んだ。 隣人の名前を知っていてもなんら不思議はないのだが、突然呼ばれると、何故だか少しびっくりしてしまう。 「すみません、表札に、そうあったので」 「あ、いえ、はい。あ、加護、将晴です」 落ち着け俺。 聞かれてもいないフルネームを名乗るなんて、どうかしている。 「あ、高橋、千佳です」 彼女は自らの名前を名乗った。 千佳という平凡なそれが、彼女によく似合っていると思った。 「この間一緒にいらっしゃったのは……弟さん?」 「あ、はい」 不安そうな表情に、彼女の言外の主張を読み取った俺は「似てないでしょう?」と自ら切り出した。 「いえ」 「いいんです、よく言われますから。あいつ、俺と違って社交的ですから。よくモテますよ」 直樹のあの明るさは、俺にはもちろん、父にも母にもなかったものだ。 両親を亡くした寂しさがそうさせているのではないかと思った事もあるが、真相は定かではない。
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