第六章

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「でも、加護さんにも素敵な彼女さんがいらっしゃるじゃないですか」 そう返ってくるとは思っていなかったので、少し面食らって言葉に詰まった。 「あ、いや、はい」 「素敵な方ですね。明るくて、可愛らしい。それに、優しい人」 「……そうですね。真奈美は俺にはもったいないです」 「いえ、そんなこと」 明るいのも、可愛いのも、優しいのも、よく知っている。 真奈美は、俺の全てを認めて、いつでも笑っていてくれる。 真奈美に出会えたことが、俺の人生最大の幸運であることは間違いなかった。 高橋さんは、おそらく俺のことを褒めるような言葉を口にしようとして、そして口を噤んだ。 軽薄な言葉になると思って発言を止めたのが手に取るようにわかる。 品格と同時に、奥ゆかしさを感じた。 「あれは、結構長いの」 視線を前方に固定したまま顎をしゃくって、先ほどから諦めもせず付いて回る人影を示した。 「あ、いえ、ここ二週間くらいなんですけど」 「毎日?」 「……はい」 二週間毎日続いているとあればかなり重度の部類だろう。 「知り合い?」 「知り合い、というんでしょうかね。患者さんです。といっても、もう退院された方ですけど」 「お医者さん?」 患者というワードに驚いて聞き返した。 表情にある陰りがそうさせるのか、彼女はおよそ医者にも看護師にも見えなかった。
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