第六章

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「あ、そうだ、兄貴、最近なんかの事件で女子高生助けた?」 「は?」 夜。 リビングの壁に寄りかかりながら文庫本を読んでいると、直樹が突然そんなことを口にした。 直樹のアバウトな問いに思わず声が漏れる。 女子高生? そんな事件……。 「あ」 「心当たりあった?」 「捜一の仕事じゃないけど、この間の非番に通り魔にあって」 「非番にそんなことしてんの?兄貴ってコナンみたいだね」 「どういう意味だよ……。で、その子が何って?」 「その子、俺の同級生なんだけど」 「は?」 何だそれ。 「兄貴どっかで名乗った?なんか加護って名字でちょっと気になってたっぽいんだけど、俺が、兄貴が剣道強いみたいな話をしてるの聞いたらしくて、話しかけてきた」 「何て?」 「お姉ちゃんを殺したやつを探してくれって」 「は?」 非番に通り魔に会うよりもよほどコナンらしい内容に、眉をひそめずにはいられなかった。 「何?どういうこと?」 不穏な切り出しに対して、俺は文庫本を閉じ居住まいをただして直樹に向き直った。 「あ、殺したってのは俺じゃなくて彼女の言い方ね。彼女、早川夏帆っていうんだけど、八年前、彼女のお姉さんが妊娠して、出産時に亡くなったらしい」 「なるほど」 殺したというのは随分と物騒な言い回しだが、遺族にしてみればそう受け取ってしまうのも無理はない。
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