第六章

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「でも、探すって言ったって、それってそのお姉さんの彼氏ってことだろう?誰だかわからないの?」 「それがさ、その姉さんの妊娠に早川の両親が激怒して相手の男のところに殴り込みに行く勢いだったらしくて、それに反抗したお姉さんが頑なに相手の名前を言うのを拒んだんだと」 「何だそれ」 言い分はわからなくもないが、拒んだって言ったって限度というものがあるだろう。 出産の段になっているのに、家族が旦那について何も知らないなんてことがあり得るのだろうか。 「しかも、早川の姉さん、そもそもその彼氏にも妊娠のことずっと黙ってたっぽくて」 「は?」 「つうのもさ、高校生だったんだよね。当時、高校二年生。それで、親にも彼氏にもずっと黙ってたんだけど、出産直前になってついにバレちゃってさ」 バレちゃって? 当たり前だろう。 その早川さんのお姉さんとやらは一体全体何を考えていたんだ。 「九ヶ月まで隠し通して、バレてから一週間後には出産、そして死亡。旦那について聞き出す暇もなかったらしい。彼氏がどの段階で妊娠について知ったのかは不明だと」 直樹の口にする話には何の現実味もない。 漫画やドラマの話を聞いている気分だ。 そんなことがあり得るのか。 「で?今更彼氏探し?八年も経ってるのに?」 「もちろん当時も探したみたいなんだけど、見つからなかったんだってさ。高校生の出産による死亡事故なんて学校にとっちゃ不名誉極まりないから、無理やりもみ消されて十分な調査もできなかったみたい。探偵を雇うような金もなかったみたいだし。この間兄貴に助けられてこの人だ!って思ったらしいよ」 何だそれは。 俺は正義の味方じゃない。
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