第六章

16/36

75人が本棚に入れています
本棚に追加
/507ページ
「どう考えても俺の仕事じゃないだろう」 「俺もそう言ったんだけどさ、どうしても兄貴に伝えてくれって言うから」 「そんなものに押されてくるなよ。聞いちまったら無視できなくなるだろう」 「やっぱり、兄貴はそう言うと思った」 直樹は他人事のように柔らかく笑った。 「なんか、手がかりとかあるの?何もなしじゃさすがに無理だぜ」 「もちろん聞いたよ。そしたらさ」 直樹が「これ」と言って俺に向かって何かを投げた。 とっさにキャッチして手を開くと、それが制服のボタンであることを認めた。 「ボタン?」 「うん」 「何?まさかこのボタンがその彼氏のだって話?」 「そのまさかさ。しかも、そのボタン、うちの学校のやつ。早川のお姉さんもうちの学校だったんだけど、出産の直前、そのボタンを大切そうに持ってたんだと」 制服のボタンが手がかりだと言われても、そんなもので人一人を探すのはまさしく雲をつかむような話だ。 「第二ボタン、ってやつか……」 「だよね。俺も思った。その場合、当時すでに高校を卒業してた可能性が高いんだよね。で、大学二年生以上だと早川のお姉さんと時期がかぶっていないから、大学一年生!」 八年前に大学一年生、俺の一つ下か。 直樹の推理はそれなりに的を射ているような気はするが、それを裏付けるような証拠はないし、仮にその推理が当たっていたとしても到底個人にたどり着けるような代物ではない。 「他にはなんかないの?さすがにボタンだけじゃ……」 「あともう一個。『わんちゃん』」 「は?犬?」 いよいよ訳がわからない。
/507ページ

最初のコメントを投稿しよう!

75人が本棚に入れています
本棚に追加