第六章

17/36

75人が本棚に入れています
本棚に追加
/507ページ
「俺もよく知らないけど、手帳に、その彼とのデートらしき日が、わんちゃんハートって書かれてたんだって」 「なんだそれ」 あだ名? 犬に似てる? でも、彼氏のこと犬って呼ぶ事あるかな……。 あー、訳わかんねえ。 「で、俺に人探ししろって?」 「頼むよ。早川にめっちゃ懇願されてるんだって俺」 「んなこと言ったって、そんな情報だけじゃ無理だろ」 「俺もそう言ったんだけどさ」と困ったような表情を見せた直樹は、「あ、兄貴明日休みだよね?明日俺の授業参観!」 「は?何?授業参観行って、お前んとこの教師に聞き込みしろっての?」 「まあ、うちの高校のOBである可能性は高い訳だし……」 「お前、俺がそんなことしてたら嫌じゃないのかよ」 「そこは兄貴がうまくやると信じてるから」 なんだそれ。 調子のいいやつだな。 「てか、教師に聞くとか、自分らでできるだろ」 「いや、それがさー、知っての通り公立高校だから先生の移動多くてさ、八年前にもいた先生ってほとんど残ってないんだよね。そういう先生にはすでに早川が直接聞いたんだけど、わかんないって……」 「じゃあ、俺が行ってもダメだろ」 「いや、わかんないよ」 何がわからないんだよ。 わかりきっているだろうが。 「頼むよ」 直樹にそう言われると断れないのが、俺の弱いところだ。 「わかったよ」 俺が折れるという、わかっていたはずの結末に対して、直樹が「さんきゅ。さすが兄貴」といつものように明るく笑った。
/507ページ

最初のコメントを投稿しよう!

75人が本棚に入れています
本棚に追加