第六章

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「加護直樹の兄です」 「あ、お兄さんですか」 俺が周囲の保護者に比べて明らかに若いことが気になっていたのか、合点のいったような表情を見せる。 顔に出やすい男だ。 顔立ちも生徒みたいに幼いし、先ほど彼の授業を見ていなければ、生徒になめられている新米教師と評していたことだろう。 ただ、授業を見た後だと少し見る目が変わってくる。 たった五十分だが、化学に対する造詣の深さと、そして生徒に対する真摯な愛情を感じた。 優秀な教師であることは間違いない。 この人が直樹の担任であるという事実に対し、単純に運がいいと思った。 「いつも直樹がお世話になっております」 「あ、いえ、こちらこそ。直樹君は本当に優秀で、もう」 目の前の青年を見ていると、一つの可能性が頭をもたげた。 「あの」 「はい、なんでしょうか」 「先生っておいくつですか」 もともと童顔なんであろう顔立ち自体は相当幼く見えるが、すでに担任を持っていることを考えるとあるいは。 「僕ですか?今年で二十七になります」 二十七。 一個下。 ビンゴだ。 俺の表情をどう読んだのか、「見えないですよね。未だに高校生と間違われるんです」と、確かにそれくらいの年齢にも見えるようなあどけない表情を見せる。
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