第六章

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「あの、先生ってこの学校のご出身ですか」 「あ、いえ。僕は隣の……」 言いづらそうに駅の方を指す。 その方向に、ここら辺では有名な進学校があったことを思い出して「すみません」と反射的に詫びた。 「あ、いえ」 まあ、そんなに簡単には見つからないか。 「どうかされたんですか」 落胆が表情に出たのか、彼は俺の目をまっすぐに見たまま首を傾げた。 「いえ、ちょっと、人探しで。この学校の出身で先生と同級生の人というのはわかっているんですが」 そもそもその情報すら定かではないのだ。 しかし、これが違ったらもう見つけるのを諦める他ない。 「そうなんですか。あの、僕、家が近所で、ここにも何人か友達が通っていたので、良ければ聞いてみますけど」 「本当ですか」 俺はダメ元で「あー、『わんちゃん』って、あだ名か何かだと思うんですけど」と情報とも言えないようなものを口に出した。 その瞬間、少し茶色がかった彼の瞳が、大きく見開かれるのがわかった。 「『わんちゃん』、ですか……?」 「ご存知なんですか?」 彼は静かに「はい」と答えた。 驚いた。 こんなあだ名一つで見つかるわけがないと思っていたが、世の中案外狭いものだ。 「その方の、連絡先を教えていただくことは可能ですか?」 「え」 人探しと銘打っているのだから、連絡先を知りたいというのは当然の流れだと思うのだが、目の前の青年は何故だか驚いたような表情を見せた。 「それは、無理です。だって」 言葉を切って、小さく首を傾げる。 それから、「あの、彼を探している経緯を伺っても?」と質問を返してきた。
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