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さて、どうしたものか。
「その方の彼女のご家族から頼まれまして」
嘘ではないが、正確でもない。
「彼女」とその言葉の内容を噛み締めるように呟いた彼は、「その、彼女さんの連絡先を教えてもらうことはっ」と前かがみに訴えたところで、また言葉を切った。
「あれ、でも、なんで」
独り言を呟いて、当惑したような表情を見せる。
どうやら、『わんちゃん』の彼女がすでに死んでいることは知らないようだ。
それなら、この反応は当然だ。
『わんちゃん』の彼女がわかっているのならば、あだ名なんかで探さないで、その彼女に聞けばいいだけの話だから。
俺は思案の末、「実は」と切り出した。
不思議と、この人には話してもいいのではないかという気がした。
「その彼女、すでに亡くなってるんです」
「え」
「だから」
「あ、いたっ」
後方から生徒の声が聞こえて振り返る。
「センセー、もう保護者の人結構集まってるよー。早くー」
「ごめん、すぐ行くっ」
彼は即座にそう答えると、そのまま視線を俺に移す。
「あの、後ほど、連絡先渡します」
連絡先?
誰の?
『わんちゃん』?
でも、さっき無理って……。
何がなんだかわからないまま、彼について懇談会へと足を運んだ。
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